祀られている神様
紹介
淡水清水巖にお祀りされている清水祖師には、台湾でもっとも絵になる呼び名があります——落鼻祖師(らくびそし)。災いが近づくと、神像の鼻がひとりでに落ちて警告してくれる、という言い伝えです。荒唐無稽に聞こえますが、淡水の人がこの話をするときの顔は真剣です。町ひとつの命がかかった話だからです。1937 年建立のこの廟は、台湾の祖師廟のなかでは新しいほうですが、「大台北四大祖師廟」の一つに数えられ、鄞山寺・福祐宮・淡水龍山寺とともに淡水四大廟とも呼ばれます。清水街の市場の動線のなかにあり、賑やかな老街から折れて数歩で、人の声が線香の煙に変わります。淡水のいちばん賑やかな顔と、いちばん静かな顔は、角ひとつ隔てただけなのです。
歴史
淡水清水巖が建てられたのは日本統治期の昭和十二年(1937 年)で、台湾の祖師廟のなかでは後輩にあたります。けれども、ここにお祀りされる「蓬莱老祖(ほうらいろうそ)」への信仰は、建物よりずっと古くから淡水にありました。鼻が落ちて災いを知らせるという言い伝えは建廟以前から町に広まっており、信徒たちは民家で持ち回りにお祀りしていたのです。廟が完成して、ようやく定まった住まいができました。信仰が先、廟が後。この順序だからこそ、清水巖と淡水の町並みの結びつきはとりわけ強いのです。廟を建てて信徒を待ったのではなく、何十年も信じつづけた人びとが、一緒に廟を建てたのですから。